「時代の変化を恐れずにチャレンジしたい」鶴屋𠮷信7代目社長の稲田慎一郎さんが語る和菓子づくりとは

鶴屋吉信 外観

京都といえば、和菓子の都。

そんな京菓子の魅力のひとつは日本の歴史や文化、伝統を感じられるところではないでしょうか。

今回取材に伺ったのは伝統を守りながらも次々と新しいことに挑戦する京都の老舗、鶴屋𠮷信。

本店にて7代目社長の稲田慎一郎さんにお話を伺いました。

雅な世界を表現する「京菓子」の文化

鶴屋吉信 店内の様子

――お店の歴史について教えてください。

稲田:1803年に創業し、今年で215年になります。もともと初代の出身は福井。

当時は職を求めて周辺の地域から京都に人が集まって来ていたようです。

昔は今のお店の場所よりもう少し北にあり、戦後、現在の場所で店を構えました。

215年というと、京都の老舗の中ではちょうど真ん中。

一般的には100年をすぎると老舗と呼ばれますが、京都においては100年じゃまだまだ老舗とは呼ばれないですね。

京都には和菓子屋さんの中でもいろんなカテゴリーのお店があります。

門前のお菓子をつくっているところもありますし、弊店のように茶事のお菓子をつくっているところ、朝生菓子(大福やだんご)のような日常のお菓子をつくっているところなど様々です。

京都では御所や宮中にお菓子を献上していたという歴史があり、雅な世界で競い合って技を磨いて来ました。

――「雅な世界」ですか。

稲田:こういうのが雅な世界です、と言葉でうまく説明できるものではないのですが…。

伝統的な柄や文様、色づかいといった平安時代にほぼ完成している素材を室町時代にかけてより一層磨きをかけ、着物、お菓子、器、茶碗に用い、雅な文化がつくられてきました。

鶴屋吉信 実演

そういう文化や世界観を京都ではとても大事にしていて。お菓子においても「和菓子」と呼ばずに「京菓子」と呼んでいただいています。

――「京菓子」にはそんな意味が込められていたんですね。茶事のお菓子をつくるということもあり、鶴屋𠮷信は上生菓子(テーマにそってつくられる芸術性の高い和菓子)の種類も豊富ですよね。

稲田:そうですね、弊店では15日ごとに上生菓子を変えています。

生菓子の数は数えきれないほどたくさんあるんですよ。例えば同じきんとんでも色を変えるだけですごいバリエーションができます。

鶴屋吉信 きんとん

それから、和菓子は少しずつ季節を先取りします。

2月からは桜の商品が出ます。

本店の表のショーウィンドウにも季節を表した工芸菓子を飾っています。

いまは枝垂れ梅。お客様も楽しみにされている方が多いですね。

鶴屋𠮷信の想いのこもったお菓子づくり

――鶴屋𠮷信といえば、京観世(きょうかんぜ)と柚餅(ゆうもち)。それぞれいつ頃生まれた商品なんでしょうか?

稲田:京観世は100年前に、柚餅は150年前にできました。

150年同じ商品を販売できるというのは本当にありがたいことです。

柚餅は、柚子を求肥に練りこんで和三盆糖をまぶしたお菓子。

戦時中の物資が少ない時代にも京菓子の伝統を絶やさないようにと指定された和生菓子特殊銘柄品にも選ばれています。

柚餅は3代目がつくったお菓子なんですが、つくり方は今もほぼ変わりませんね。

鶴屋吉信 京観世

(参考:京観世の記事はこちら

京観世は本店の近く能楽発祥の地に観世井があり、その水紋が観世水と伝えられ、そこから名付けたお菓子です。

今も職人が簾(すだれ)でひとつひとつ作っています。

――今も手づくりとは驚きました…!他にオススメの商品はありますか?

稲田:メッセージを込めたものでいうと、「鶴屋𠮷信ようかん」という商品もわざと小型ようかんという名前をつけませんでした。

鶴屋吉信ようかん 中身

(参考:鶴屋𠮷信ようかんの記事)

――それはなぜですか…?

稲田:これからはこのサイズがスタンダードになるというメッセージなんです。

今までは1棹の羊羹を家族で好きな大きさに切りわけて、お皿にのせて黒文字で食べる。

そんな食べ方が主流でした。

だけど、暮らし方や家族の形が変わってきて、大きな羊羹は食べる機会がぐんと減ってしまいました。

ですから、この羊羹は大型に対して小型っていうのではなくて、新しいスタンダードになるようにとつくられた羊羹なんです。

――なるほど、お客さまが食べるシチュエーションをすごく大事にしたお菓子づくりが行われているんですね。

稲田:京観世や柚餅のような代表銘菓は変わっていませんが、私が入社してから28年、実は6割のお菓子が変わっているんです。

――え!そうなんですか、それは驚きです……!

稲田:鶴屋𠮷信では1代で1つヒットする銘菓が誕生したらいい、と言われていて。

ヒットする商品をつくるというのはなかなか難しいですね。

今はおいしかったら売れる、という時代ではなくなってきています。

おいしいということは前提で、パッケージや売り方、見せ方。

和菓子を手にとっていただく機会や、きっかけを増やしていかなければいけません。

どんなメッセージを伝えて、どうしたら食べてもらえるのかを社員みんなで考えながらやっています。

常にチェンジすること、チェンジすることにチャレンジすること

――2015年に新しく生まれたブランド、IRODORIについて教えてください

稲田:和菓子の世界は60~70代と年齢層が高いです。

鶴屋𠮷信は直営店が3店舗とその他は百貨店。

若い世代はなかなか百貨店で買い物しないでしょう?それでIRODORIを出店しました。

鶴屋吉信 IRODORI 琥珀糖 外装

(参考:鶴屋𠮷信 IRODORI 琥珀糖の記事)

IRODORIの素材は基本的には全部伝統的なお菓子と同じ素材を使いながら、色合いとフレーバーをちょっと変えたもの。

若い世代にちょっと気にして見てもらえるような商品がテーマです。

カラフルで可愛い、手に取ってみると実は和菓子だったんだっていう発見があると楽しいなと。

そんなイメージでつくりました。

――アイデアのきっかけがあれば教えていただきたいです…!

稲田:もともとのきっかけは私がステーショナリーを好きだったこと。

文房具売り場で鉛筆や絵の具のセットを見るのが好きで、それから生まれた発想です。

琥珀糖(寒天に砂糖などの甘味を加えてつくる日本の伝統的な和菓子)はパステルみたいでしょう?

イロモナカはフランス料理のデザート、マカロンからヒントを得た商品。

東京・表参道にフレンチを食べに行った時に最後のデザートに小さいマカロンがたくさん出てきて。

「これを使おう!」と。最中のふたを閉めずに中の餡を見せてマカロンのように仕上げています。

そんな今までとは少し違った見た目のかわいらしいお菓子を、伝統的な和菓子の味ではなく、新しいフレーバーをつけてみよう!とみんなで相談して出来上がりました。

鶴屋吉信 IRODORI 有平糖 開封後の写真

(参考:鶴屋𠮷信 IRODORI 有平糖の記事)

――新しいことに対するためらいなどはなかったんですか?

稲田:今の時代に生きてる人、次の時代に生きていく人にどう喜んでもらえるかという和菓子づくりをしていかなければいけないと思っています。

常にチェンジすること、チェンジすることに対して貪欲にチャレンジしていくことがキーワードだと感じています。

いくら江戸時代からの和菓子が古くていいですといっても今の人にマッチしなかったらそこで歴史が終わってしまいます。

京菓子の伝統を守るのではなく、しっかりと見据え、大切にしながら、果敢に新しい価値の創造にチャレンジをしていこうと思っています。

日本の文化を知ること、そして、発信していくこと。

――京都に来ると文化が街に根付いているのをひしひしと感じます。

稲田:京都は歴史の残る町。

昔から戦いも多いですが、その度に京都の町を立て直してきたのは町衆なんです。

やっぱり町衆の力は強いなと、歴史から学ぶことも多くて。

そして、季節ごとの催事や祭り事を今の時代においてもきちんと雅な文化を守っているのは他の町にはない特色かなと感じますね。

例えば2月の節分。今は恵方巻きの方が有名になってきていますが、豆まきは室町時代からの文化なんですよ。

本来、節分とは季節を分ける、という意味。

だから本当は1年に4回あるんです。

冬から春へと変わるこの時期に、邪気払いといい年になりますようにという願いを込めて行われたのが豆まき。

鶴屋吉信 福ハ内

(参考記事:鶴屋𠮷信 福ハ内の記事

節分を始め、おせち、七草がゆ、小豆粥。

ただ食べておいしい、まずいと判断するのではなく、日本には二十四節気があって、たくさんの行事があります。

伝統をわからずにやってる人もいるかもしれないけど、「こういう意味があるんです」ときちんと説明する必要があると思うんです。

日本人の良き伝統をOMIYA!でも伝えていってほしいと思いますね。

せっかく日本に生まれ育ってきたんですから。

日本の文化を知ること、そして日本のいいところをお菓子とともに若い世代に発信していきたいと思っています。

鶴屋吉信 稲田社長

編集後記:取材を終えて

和菓子は日本の文化、歴史ときっては切り離せないもの。

和菓子と一緒に普段は見逃しがちな季節の移ろい、古くから受け継がれる日本の伝統を改めて感じるきっかけとなった取材でした。

何気ない毎日がそっと色づくような日本の心を大事にしたいですね。

稲田社長どうもありがとうございました。

鶴屋𠮷信のお菓子のまとめ

OMIYA!では、鶴屋𠮷信の各商品を食べてみた感想を記事にしています。

このページをきっかけにそれぞれのお菓子についてもチェックしていただけたら嬉しいです。

鶴屋𠮷信 本店のアクセス

鶴屋𠮷信本店は数奇屋造りの名建築家中村外二氏によるもの。

また景観に配慮した建築との評価で京都市都市景観賞を受賞しているそうです。

2階にはお茶室もあり目の前でお菓子をつくっていただける実演カウンター「菓遊茶屋」もあります。

店舗情報

  • 店名:鶴屋𠮷信本店(つるやよしのぶほんてん)
  • 住所:京都市上京区今出川通堀川西入る
  • 電話番号:075-441-0105
  • 営業時間:1階 店舗 9:00~18:00
    2階 菓遊茶屋/お休み処  9:30~17:30(ラストオーダー)
  • 定休日:1階 店舗 元日/水曜日の一部に休業日あり(下記参照)
    2階 菓遊茶屋/お休み処 毎週水曜定休(祝日の場合は営業)
  • 公式ホームページ:http://www.turuya.co.jp/index.html